旅にでる 年末年始・東南アジア編 2(オープン・シェムリアップ!)
都市部空港は、現代的な外観、高い天井、大きい窓がつけられているといった特徴のデザインが多い。
デザインは幅広いけれど、開放的でダイナミックだというところは、同じなのではないだろうか。どの国に行っても大きな違いはないと思う。
しかし、アンコールワットがあるカンボジアの古都、シェムリアップの空港は、わたしがいった、これまでの空港と全然違っていた。
シェムリアップ空港は、まるでリゾートホテルのようだった。
国内線・国外線、入国出国が別棟になっており、それがヴィラみたいで「ここに泊まりたいな」とさえ思ったほど。
素敵なリゾート空間で入国審査を済ませることになった。
カンボジアの入国審査には、証明写真を提出するという決まりがある。
その規定サイズが日本の証明写真機にはないので、出発前の成田空港で、「大は小を兼ねる」と、大きめのサイズで撮影しておいたのだった。
そして入国審査のスタッフは、それの裾を一直線にカットしたのだ。
躊躇なく機械的にはさみを入れる姿をみて、サイズはどうでもいいのだなあと思いながら、南国のおおらかさを感じてワクワクした。
上海から一緒に行動していた女性とは、空港でお別れ。
無口でかっこいいお父さん、彼女に似た、明るくサバサバしたお母さんがエントランスに迎えに来ていた。
チケットの件で情報交換をしようと、わたしたちと彼女は連絡先を交換していたので、一期一会のお別れ感はなく「ではまた後日」と軽く別れの挨拶をした。
ウルルン滞在記のようなお別れは、旅の始まりに重たすぎる。
そうして彼女はご両親と、わたしとはもだちとのカンボジア・ベトナム旅行がようやく始まった。
シェムリアップは東南アジアらしい風景がつづく、地方都市だった。
ホテルに向かうタクシーに乗りながら街並みを眺めると、天井からつるしたプロペラのようなものにビニール袋をくくりつけまわしている精肉店を見つけた。屋台に並べられた商品に虫がつかないよう、設置しているのだろう。
その風景をみて、わたしは「日本とは遠い国にきた」という実感がわいていた。
シェムリアップは、道路もお店にも目立ったゴミもなく、清潔な町である。きれい好きな国民性かもしれないなと思った。
現地に遅れて到着をすることを、ともだちがホテルへ連絡してくれていたので、すんなりチェックインをすることができた。
中庭にある大きなプールを囲んでヴィラタイプの部屋が並ぶホテルは、部屋の中もコンクリートと木造が調和した、おしゃれな内装だ。
蚊は多いけれど快適に過ごせそう。
そう思ったのだけれど、ホテルスタッフが案内したあと、部屋についているベランダにあるお風呂以外、バスルームがないことに気が付いた。
ヤモリと蜘蛛の巣が壁にくっつき、蚊が飛ぶかう空間にぞっとして、急いで部屋に戻ると、「べつに大浴場があるかもしれないよ」と、ともだちが言った。
そんなの気休めにもならない。けれど、もしかしたら。
淡い期待を抱きながらホテルの受付に戻り、「お風呂はベランダにあるところだけか」と若くて初々しい男性ホテルスタッフに尋ねると、満面の笑みで「イエス!」と答えてくれた。
どうやらこのホテルの魅力のひとつらしい。
キラキラした彼の瞳を見つめながら、野外シャワーをする覚悟を決めた。
開放的なお風呂でシャワーをすまし、少し休んでからシェムリアップの繁華街『パブストリート』へ晩御飯を食べに行くことにした。
タクシーからトゥクトゥクに乗り換え、目的地へ向かう。
トゥクトゥクとは、バイクタクシーのことだ。バイクタクシーといえど、バイクにそのまま四輪の客席がくっついている、東南アジアならではの乗り物である。
乗るたび、「運転手のバイクと客席の連結が離れてしまうんじゃないか」と不安になるが、幸いその事態に陥ったことはない。
よくゆれるものの、心地よい風を受けながら景色を楽しめるので、わたしは好きだ。
シェムリアップでの相場は片道3ドルくらいだろうか。首都プノンペンでは4ドルだったと思う。
カンボジアではアメリカドルが主流なので支払いが楽だが、細かいおつりは現地紙幣のリエルを受け取る仕組みなので、すこし困る。けれど物価も安く、値段はドルで統一されているので、困ることはなかった。
パブストリートは、ネオンかがやく繁華街であった。
いくつかの通りがパブストリートとして交差し、そのすべてに、びっしりレストランやバー、クラブやお土産屋さんがならぶエリアである。
ホテルのお風呂と同じく、シェムリアップは「開放的であること」が重要らしい。
レストランはどこも広々としたオープンテラスで、欧米からきた観光客たちが、ひとりがけのゆったりとしたソファに座り、食事を楽しんでいた。繁華街なのに、治安は悪くなさそうだというのが、わたしの印象である。
わたしは、トランジットやシェムリアップ空港でアジア料理をしこたま食べたので、全然違う食べ物が食べたくなった。
オープンテラスで、マルゲリータピザとスパイシーなパスタをともだちとシェアし、コーラを流し込む。
安くておいしい食事は、カンボジア滞在を安心させるのに十分だった。
次はアンコールワット編。