女のプライドと結婚式のドレスについて
男性から「女はドロドロしている」「女は怖い」ことを期待しているような発言をされるときがある。
実際はそんなことはなく、少なくともわたしの周りでは平和である。マウンティングしてくるのは男性も同じだ。
ただ一つ言えるのは女性同士には、見えないプライドというものが存在する。
だれも表情にはピクリともださないが、確実に誰しもが持つものだ。
むかしどこかでこんな話を聞いたことがある。
大手セレクトショップには必ず結婚式の参加者向けのパーティードレスが陳列されている。大体ラック一つ分だ。その周りにヒールや煌びやかなクラッチバッグなどがディスプレイされているのである。
季節によってがらりと変わるラインナップだが、ここだけはアイテムの雰囲気も変わらない。単純な話で必ず売れるからである。
なぜかというと「女性は同じ衣装着ないから」だという。
結婚式への参加は友達や知人が招待してくれるパターンがほとんどだ。
共通の友達も多く、あるときの結婚式の参加者が今度は結婚式を催すことになる、なんてことはざらにある。
そうなると、前回会ったメンバーに同じ衣装を見られるのは恥ずかしい気がするのだ。
結婚式は写真もビデオも多く撮られる。そこに映るじぶんの衣装が毎度同じだと、前も着てたと気付かれると想像してしまうのである。
自意識過剰かもしれない。男性には理解できない心理だと思う。
スーツやネクタイの色、靴のブランドまで細かく変えるのはよほどファッションがすきなひとだろう。
だが女性は、数多くの選択肢から自分に似合う色や形、さらにはトレンドのデザインを選ばないといけないのである。
ただ、こんなことは誰も決めていない。
ネットに書いてあるのは「肩やつま先を出すのはやめましょう」といったマナーについてだけだ。
だれも決めたわけでもないルールで、むしろTPOを弁えていれば、何を着てもいいはずである。
けれど確実に女性たちのなかにはあるのだ。
コロナウイルスで長らく延期をされていた、ともだちの結婚式に参加する前日、わたしは果てしなくブルーであった。
ともだちの結婚式に参加することは楽しみである。旦那さんはとても優しくて良いひとなので、心からふたりを祝福したいと思っていた。
しかし、わたしはものすごく不器用でヘアセットができないのである。
ヘアセットはできないし、さらにはネットで買ったドレスも気に入らなかった。
前着たドレスは嫌だし、かといって美容院のヘアセットもしたくないと言った、全くともだちには申し訳ない状況であったのだ。
なにより、あのパーティー向けのヘアメイクが好きでない。
後毛を出したり、トップをふんわりしたり、三つ編みをしてまとめたりした髪型だ。
詳しくなさすぎて抽象的な言い回しなのは、興味がないことを表していると捉えてもらいたい。
他人がするぶんには気にならないし、かわいいと思うが、わたし自身はもっとナチュラルでシンプルな方が好みなので、美容院予約したところであれをするのかという、お金を払って気に入らないセットをし一日過ごすという想像までついてしまい気が重かった。
どうせマスクをするのだからなんでもいいじゃないかと思い込もうとしたが、無理であった。
なにせ会場まで行く参加者のともだちは待ち合わせ前にヘアセットを美容院で予約すると連絡してきたのだ。落ち込みにさらに拍車をかけた。
安いネットで買ったドレス、気に入らないヘアメイクに悩みながらも、最近行けていなかった眉毛サロンに行った。
担当してくれた店員さんはクールな雰囲気の女性だった。
華奢な体型に黒のピタッとしたへそだしニットを着ていてデニムパンツ、足にはスニーカーを履いていた。
髪型は明るい茶色と黒のハイライトをしていて、カジュアルだが女性らしく彼女にとても似合っていた。
こんなおしゃれなひとは、結婚式に参加するときどんな服を着るのだろう。
わたしは好奇心が抑えられなくなり「結婚式はどんな服装をしていますか」と聞いてみた。
黙々と作業していた店員さんは花のように明るい声で「わたし、一般的な結婚式のヘアメイクがすきじゃなくて。だからいつもボリューム抑えたダウンヘアーで、黒のパンツばっかり履いていますよ」
と教えてくれた。晴天の霹靂だった。なんて自由なんだろうとうれしくなった。
そこから、その店員さんがともだちの結婚式はZARAでパーティーにきれそうなセットアップを新調して使い回していること、パールアイテムは使わず、クラッチの革のバッグを使っていること、靴は毎度変えずに使いまわすこと、さらに髪の毛をまとめるときは、ゆるいお団子で済ませていること、などを根掘り葉掘り聞き出した。
わたしがドレス選びの苦悩を語ると、大きく笑い「なんで同じ衣装を着たくないんでしょうね〜やっぱり写真に写るからですか。だれにも言われたわけじゃないんですけどね」
と言っていた。
店員さんと話をしていくなかで、わたしは新しくじぶんに合った衣装を買うことを決心していた。仕事でもふだんでもよく履くパンツで、シンプルなスタイルでいきたいと思ったのだ。
そう伝えたとき、眉毛は仕上げの段階に入っていた。
最後に店員さんが「今からだったら、まだZARAもあいてるし、アトレもあいてますよ」と教えてくれ、わたしは直行した。
ZARAには行かなかったが、結局じぶんのすきなコーディネート一式を買い揃えた。
正直ヘアセットを予約するよりもだいぶ高くついたのだが、好きではないコーディネートで出かけるよりは何百倍もましであった。
ついでに服屋さんで眉毛サロンの店員さんにした同じ質問をすると、対応してくれた店員さん2人も小物だけ変える、髪型は自分でやると教えてくれた。
女性たちは見えないプライドと戦いながらも、日々工夫しそれぞれのおしゃれを精一杯楽しんでいるのだ。