のぐちよ日記

映画、本、アート、日々のことをちまちまと。

彼女の顔つき

8月がバトンを9月に渡して、ぐんぐん秋に突っ走っていく。

夏がすきなわたしにとっては悲しいことだけれど、季節はコントロールできないので仕方がない。

バトンタッチされる前、8月の終わりに毎年必ず会うともだちがいる。

その子はヨーロッパに住んでいて、毎夏一時帰国するのだ。

学生時代からハッキリ自己主張をする、明るい子だったけれど、まさか彼女が海外生活をするなんて、当時は誰も想像できなかっただろう。そのくらい、わたしの周りで海外を意識したひとはいなかったのだ。

 

たまの再会がうれしいに決まっていると言い切りたいが、わたしはその子の帰国連絡が来るたび、年々気が重くなってきていた。

 

悪い言い方だが、その子は数年に及ぶ外国暮らしで、すっかり海外にかぶれていたのである。欧米と日本を比較してもの申す。それが差別的な意見だと気付かずに、である。

日本に帰国するたび、日本の悪いところを再確認して安心するような、そんな言い方をよくしていたのだ。

わたしは、留学経験があるので、そう言いたくなる気持ちを分からなくもない。

そもそも、日本だけで満足できないから、海外へいくのだ。留学や移住をしたひとはそれなりに日本の不満があるのではないかと思う。

けれど、いってみてわかる。「どこもいいところと悪いところがある」。

わたしは去年彼女と会ったときに、「ああ、この子は今大変な状況なのかもしれないな」と何となく思った。

精一杯強がりをしている。周りにあまり頼れるひとがいなくて、寂しいのかもしれないなと感じたのだ。

 

ひとが、なにかに対して攻撃的になったり、見下したりするときは、現状に満足していない証拠なのである。

 

今週末、再会の待ち合わせで「久しぶり」と声をかけてきた彼女の顔を見て、はっとした。

まるでなにか憑き物がとれたような、ゆったりとして余裕のあるような、良い意味で力が抜けている顔つきをしていたのだ。

「あ、きっと人生がいい方向にいっているんだ」と気が付いた。

実際に彼女はそうだった。近況報告を聞いてみると仕事も順調で、恋人ともうまくいっているらしい。よかったなあと思いつつ、わたしは別のことを考えていた。

 

性格が変わってしまうほど、ひとは環境や現状に影響されるものなんだなあ。

 

長い付き合いをしているともだちだから、彼女の顔つきを見れば今どんな状況か分かる。

しかし、大体の初対面で相手の振る舞いが、そのひとのすべてだと思ってしまう。それってもったいないことだな、と思った。

もし、初めて会ったそのひとが、調子が悪かったり、仕事がうまくいってないとしたら、どこか暗いオーラをまとっているだろう。

仕事の話になった時は、ネガティブな意見しか言わなくなるはずだ。たまに、ポーカーフェイスがうまいひともいるけれど。

 

だからといって、「初対面で相手を判断するな」とはわたしはいえない。

人生は早い。毎日は忙しい。みんな、そこまで他人にかまっていられないのだ。

 

一緒にご飯を食べていたとき、彼女が「日本はかわいい服がたくさんあるから、滞在中いっぱい買い物したよ。あと、夜中にお腹がすいたらコンビニへ行って、おにぎりを買って食べてたから、絶対太ったな」とニコニコしながら言った。

うまくいけば彼女は、永住権がとれるらしい。今後その知らせが届くのが楽しみだ。

 

季節の移り変わりのように、ひととの出会いは流れていってしまうけれど、彼女の顔つきだけは、ずっと変わらず眺めていたい。