原宿の美容師さん
わたしが美容院のことをよく書くのは、そこが特別な場所であるからに違いない。
気分転換もあるけれど、普段は自分でする、頭を洗うということをやってもらえる贅沢感。
それには洗う技術についてはもちろんのこと、絶対にいい匂いのするシャンプーとマッサージがついている。
わたしの友達は「もしお金持ちになったら、毎日美容師を家に呼んでシャンプーをしてもらう」と言っていたのだけれど、すごくいいアイディアだと思った。わたしもお金があったら専属の美容師をつけて、毎日シャンプーをしてもらいたい。
ところでわたしは、美容院難民である。前回行ったところはいまいちだったし、今回はどこへいこうか、ネットでよさそうな美容院を探して行った。
そこは人気で有名な場所らしかった。原宿にある美容院で、平日にもかかわらずお客さんがたくさんいて、スタッフは効率的に動いてるように見えた。
担当してくれた美容師さんは男性でやさしそうな顔をしていて、安心したのもつかの間、どういう髪型が合うのかということをマシンガントークしてきたのである。
カット技術に絶対的な自信があるのだろう、見た目とのギャップに驚いた。
彼はひとしきり話した後、「どういう髪型にしたいですか?」という質問がやっときたので、(大体初めに聞かれる質問である)その美容師さんがカットした、ヘアスタイル画像を見せた。
美容師さんは自分がネットで載せたスタイルを目当てに来てくれたということが、きっとうれしかったんだと思う。さらにカットについて話し始めた。
「ほお~」「へえ~」「そうなんですか~」と、違和感がないよう相槌をローテーションしながらわたしは美容師さんて、シェフみたいだなと思った。
隠し味に味噌が使われていようが、高度な技術が使われていようが、口に入れた時の食感や味がすべてなので、正直いって料理の説明はどうでもいい。
けれど、シェフは完成品よりも過程や技術を愛する。
どうしたらおいしくなるのか、そのためにどういった技術が必要か。その過程が、お客さんの評価だと信じて疑わないのだ。
そんな職人気質な美容師さんは、カットの時も髪の話しかしていなかった。大体美容師さんは世間話をしてくれるけれど、そういったものが全くなかったのである。
受付で記入したアンケートに、美容師さんがカット中、おしゃべりするかどうかについて、「できるだけ話したくない」ではなく「楽しく会話をしたい」に丸をつけたのにも関わらずである。アンケートの意味はあったのか疑問に思ったけれど、美容師さんが楽しく話してるなら、まあいいかと話を合わせた。
出来栄えは正直カット前とそんなに変わらないと思う。もともとの髪型と大差ない画像を見せたので、予想通りではあった。
けれどそこにはすごく技術が必要なカットがされているようだ。(きちんと聞いてなかったので説明できないのが残念である)良いカットは時間がたっても髪がきれいに伸びることだと思うので、伸びてもセットが簡単だったらいいなと思う。
カットが普通で、話もちゃんと聞いてなかったのに、その美容師さんをとても好きになったところがある。それは、アシスタントに親切だったのだ。
彼はアシスタントがお茶出しやシャンプーをするときに、きちんと目を見てありがとうと言っていたのだ。
加えてシャンプーのときだって、ドライヤーの時だって丁寧に指示をしていたのである。
美容師さんはアシスタントに対して素っ気ないイメージがあった。仲は悪くないんだろうけれど、忙しいからか、そこまで指示はしないイメージがあったので、その美容師さんのふるまいは新鮮だったのだ。
彼は仕事を愛しているのだと思った。そういうひとのそばにいるのは、気持ちが良いことである。わたしは上司に恵まれてこなかったので、見習いのひとがにこにこしていたり、生き生きしているのを見るとほっとするのだ。
まあまあの出来栄えでも、シャンプーのような、気持ちのいい空間に再び行くのも悪くない。
美容院について以前書いた記事↓