万引き家族をみて思ったこと
是枝監督の「万引き家族」の感想記事です。
※ネタバレあり。
ぼろ一軒家に住む、父治、母信代、祖母初枝、娘亜紀、息子祥太は、初枝の年金と、治の日雇い労働、母のクリーニング屋のアルバイト、そして「万引き」をしながら暮らしている。
治と祥太がスーパーで万引きをした帰り道、マンションのベランダに出されていたゆりを、柴田家に招き入れるところから物語が始まる。
徐々に家族は血のつながりがないこと、それぞれ家族がもつ秘密が明かされていく。
労災、虐待、貧困、年金不正受給など、社会の問題提起をした作品だ。
わたしなりに思うことがあったので、そのことについて書きたいと思う。
祥太について
祥太が治にスイミーの物語を、話すシーンがある。
「スイミー知ってる?」という祥太に、治は「俺英語わかんねえ、国語はもっとわかんねえ」と関心を持たず、流してしまうのだ。
とても浅はかだと思ったし、「そのうち祥太は治を超えてしまうんだろうな」と見ながら思ったのだが、まさにその通りになった。
祥太はとても頭のいい子だった。
もし気付かなかったら、あるいは気付かないふりができたなら、幸せだったかもしれない。
駄菓子屋さんのおじいさんに「妹にはこれ(万引きのサイン)させるなよ」と言われて善悪が芽生えたこと、「お店のものは誰物でもないから盗んでもいい」という謎理論を語る治が、車上荒らしをしたことで、祥太は現実に気付いてしまうのである。
祥太は「このままではまずい」という危機感から、つらい現実を受け入れることにした。
自ら万引きをして捕まる道を選んだのは、自分が悪者になることで、家族が助ける道を選んだのである。
祥太の健気さを思うと、すごく悲しい。
なぜ家族ごっこをしていたのか
ラストの取り調べのシーンは警察(世間)と柴田家が対比するように、ワンシーンひとりずつセリフを言う演出だ。
両者はまるで、対岸で話をしているみたいに全く話が噛み合わない。
血のつながりもないのに、取り調べで家族同士かばい合ったのはそれぞれ、後ろめたい気持ちがあるからじゃないかと思った。
毎晩、全員そろって食卓を囲んだり、みんなで海に行ったことも、そして治が自身の本名である「祥太」と息子に名付けたのも、幸せな家族のメンバーになれなかったひとたちが演じる「理想的な家族」なのだ。
家族のだれも本気で喧嘩をしなかったし、子供たちを叱らなかったのはそのせいなのではないかと思う。
柴田家は、まるでメリーゴーランドみたいだと思った。
愉快な音楽が流れ、同じところをぐるぐる回る。
きらきらしたその輪の中にいれば、つらい現実を見て見ぬふりをしていられた。
その日暮らしの生活でも楽しければ、あとのことなんてどうでもいいのだ。貧しくたって家族ごっこをしていれれば、それでよかったのである。
偽物にも本物が宿るということ
では家族ごっこのなかに愛情はなかったのか。
万引き家族を見た後、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の「鑑定士と顔のない依頼人」を思い出した。
孤独な美術オークショネア兼美術鑑定士が、とある洋館の美術品鑑定をすることになる。その館にすむクレアという謎に包まれた女性と出会い、恋に落ちるというストーリーだ。
どんでん返しのあるミステリーで最高に面白い映画である。
「贋作にも真実が宿るのか」というテーマだが、それは「万引き家族」にもつながるものがあるんじゃないかと思った。
祥太がわざとばれるように万引きをした後、家族が祥太を置いて夜逃げしようとしたのも、力づくで「家族を守る」という意思を感じることはできない。(仕方ないことであっても)
そもそも柴田家がしていた万引きと「子供を連れ去る」という「誰かから盗む」行為は無責任で、初枝を埋めて年金を不正受給したことなんて、人でなしだ。もっというと、治と信代は殺人をしていて、それをみんなに隠していた。最低だ。
けれど。
取り締まり室で、信代が涙をごまかすように、髪をかき上げながら目をこするところも(すっごく好きなシーンだ)家族がバラバラになったあと、祥太が乗ったバスを走って追いかける治にも、家族愛を感じた。
偽物のなかにも本物が宿るのである。
ラストにゆりが、虐待されていた「血のつながった家族」のもとへ返されるようにしたのは、「母は子を愛しているもの」という、世間の思い込みを描きたかったのではないかと思う。
本物の家族に、愛があるとは限らないのだ。
「生まれたところは選べないけど、選んだ絆は本物だ」と言った初枝のことばを思い出す。
とはいえ、祥太が着ていたヨレヨレの服はどう見たってネグレクトを受けている子供に見える。近所の人が通報するのは時間の問題だったと思う。
そりゃあ、家族みんな無責任で最低だし、結局誰も救われてないけれど。
あのまま暮らしていても、だれひとり幸せにならないだろうけどなあ。
祥太とゆりが、セミの抜け殻を探してあそぶシーンを思い出した。