リメンバー・ミーの感想と日米予告編比較
数年前、ディズニー・ピクサー映画のベイマックスがヒットした。
わたしの周りで評判が良かったので、見に行ったのだが、予告編が感動ものと謳っているにもかかわらず、本編はアメコミのアクション映画だったのでびっくりした。
予告と違うとがっかりしたが、そのとき「全米公開の予告編と日本公開の予告編って、全然違うのではないか」と気が付いたのだ。
さっそく家に帰り、パソコンで全米公開の予告編を見てみると、やはりアメコミアクション映画であることを打ち出していたのである。
現地で大人気だし、そのままでも復興が良いのだろう。しかし、日本ではどうだろうか。
アメコミは一部人気が高いけれど、邦画はヒューマンドラマやラブストーリーが多く人気だとすれば、感動シーンを予告編で打ち出したほうが、観客を動員できるのではないかと考えるだろう。
人気の物が国によって違うので、予告編もあわせて変えるのは当然である。
予告編の特徴として、欧米映画は説明が少なく、シーンの合間に、大きく文字であらすじやメッセージを打ち出すスタイルである。対して日本はナレーションで進める。
ストーリーのわかりやすさは日本であるが、映画の世界観は欧米のほうがわかりやすい。
4月末にディズニー・ピクサー映画の「リメンバー・ミー」を見に行った。
- アーティスト: Various artists
- 出版社/メーカー: WALT DISNEY RECORDS
- 発売日: 2018/03/14
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先に、あらすじを説明する。
舞台はメキシコ。靴職人一族の12歳の少年、ミゲルが主人公である。
とある過去の出来事から、ミゲルの家の掟は「音楽禁止」。
ミゲルは掟の通り、普段音楽は一切しないが(ハミングも禁止!)1942年に亡くなった偉大なミュージシャン、エラネスト・デラクレスに憧れ、彼のグッズを並べた秘密の屋根裏部屋を作る。
その部屋で、彼のギターに真似たデザインのものをつくり、奏で歌う日々をおくる。
年に一度、死者が戻ってくるという「死者の日」が近づき、先祖を迎える準備をしているなか、ひょんなことからミゲルは、高祖父がエラネスト・デラクレスだと確信する。
ギターを持ち出し、死者の日に開催される、音楽コンテストにでたいとミゲルのおばあさんに懇願するが、その場でギターを壊されてしまう。
どうしても諦められないミゲルは、エラネスト・デラクレスのお墓に飾られているギターを持ち出すことを思いつく。
「ひいひいおじいちゃん、ミュージシャンになることを家族に認めさせたいんだ!力を貸して!」とギターをひとたび奏でると、ミゲルはその瞬間から死者の姿が見えるようになり、ミゲル自身の姿は、生きている人々から見えなくなってしまう。
元の姿に戻るため、死者の世界へ渡り奮闘する物語である。
ディズニーのストーリーは善人・悪人がはっきり分かれていて、主人公が人間的に成長しハッピーエンド、がお決まりだ。
しかしリメンバー・ミーは展開に無理がなく、伏線をがんがん回収していくので、あっという間にエンドロールを迎える。
死者に捧げるマリーゴールドも、出てくる骸骨メイクも鮮やかで、映像は目を奪われるほど美しい。
家族愛をテーマにした作品で、ふだん家族愛の薄いわたしでさえ、頭が痛くなるほど泣いた。傑作だと断言できる。
それでは、アメリカ版と日本版で予告がどう違うのか。
日本版(吹き替え)予告をまず見てもらいたい。タイトルでもあり、全編で主人公が憧れるエラネスト・デラクレスの「リメンバー・ミー」が流れる。
主人公はミュージシャンになりたい!と家族に反発をし、夢を勝ち取るため奮闘するシーンがメインだ。
その過程で知る、「家族の秘密と家族愛について」がテーマであることが分かる。
公開日は3月16日なので、春休みとGWを想定し「親子でみましょう」ということだろう。
続いて2017年公開されたアメリカ版。まず、ミゲルのひいおばあさんの「Coco」がタイトルである。
ミゲルがココになついている場面から始まり、家族がクローズアップされている。
ミュージシャンを目指し、死者の国にいく流れは日本語版と同じである。
しかしBGMはリメンバーミーではなくアップテンポの曲で、ギャグ要素が強く、死者の国からはドタバタ感が強い。
これでもかというくらい「Family」を連呼している予告編である。
ところどころ出てくるメッセージをピックアップしてみると
This thanks giving /on November 22 /this world and the next /family is forever
Thanks Givingとは復活祭のことで、アメリカでは11月第四週の木曜日、家族が集い七面鳥を食べる祝日だ。(友達と過ごす場合はFriends Givingというそうです)
遠くに住んでいる人も実家へ帰省するので、日本でいうとお正月のようなものである。
前日帰り際のあいさつは「Have a great Thanks Giving!」といって別れるのが定番。良いお年を!のようなあいさつである。
その週は木曜日からお休みになり、翌週月曜日からまた仕事や学校が始まる。
去年のThanks givingは11月23日なので、その前日が公開日である。
the nextはthis worldからthe next worldである「あの世」とすると
「この世とあの世でも家族は永遠だ」ということ、「Thanks givingに家族でこの映画を見て、一層絆を深めよう」というメッセージを含んだ予告である。
こうやって日米予告を比べて見るだけで、文化の違いも分かるので面白い。
話は変わるが、youtubeにアップされていたアメリカ版予告編に、メキシコ人の方が
「メキシコの文化を丁寧に描いてくれて感動した。ありがとうと言いたい」といったコメントを残していた。
日本人である私でさえ、細かく演出されているなあと思うくらいなのに、本場メキシコの人々はどれだけこの映画を見て感動しただろうか。
ピクサーのメキシコ文化への尊敬を感じる素晴らしい作品であった。