のぐちよ日記

映画、本、アート、日々のことをちまちまと。

故郷はいずこへ ジョゼッペ・トルナトーレ監督映画「ニューシネマパラダイス」※すこしネタバレ含みます

以前イタリア映画について書いたときに、いつかニューシネマパラダイスについて書くといったが、先日劇場版(ショートバージョン)をみたので、書きたいと思う。

 

noguchiyo06.hatenadiary.jp

 

 

映画好きな人、とりわけヨーロッパ映画が好きな人は絶対に見るべき作品だ。

ある中年の映画監督の、回想録である。主人公トトの故郷、シチリアの、小さな田舎の映画館で働く映写技師のアルフレードと、いたずらと映画が大好きなトトの幼少期、映写技師としてアルフレードの手伝いをする青年期のトト、トトが映画監になり、帰郷する中年期の3つの時代に区切られる。

 

 映画史と、歴史の流れが感じることができる映画で、映画好きにはたまらない。

第二次戦時中には、戦況ニュース、チャップリンなどの喜劇、戦後のカラー映画の始まり。

イタリアは敬虔なカトリックで田舎のため、当初は恋愛映画のキスシーンもNG。それが時代が下るとOKになる。映画がどのように変化していったのか。流れがすごくわかりやすくて面白い。

更に面白いのが、映画を見る大衆である。

以前、村上春樹ギリシャ・イタリア滞在のエッセイ「遠い太鼓」を読んだことがある。

現地人は、映画館でも平気で話し出すし、知り合いがいたら映画そっちのけであいさつする、と書いてあった。

シーンとしている映画館しか知らなかったで信じがたかったのだが、まさに大衆の鑑賞スタイルがそうであった。

 

遠い太鼓 (講談社文庫)

遠い太鼓 (講談社文庫)

 

 

それとヤジを飛ばしたり、ちょっとここでは書けないこともしていて、自由奔放過ぎる。けれど、人々は生き生きしていて楽しそうだ。

まさに映画が一番の娯楽であった、映画の黄金期を描いている

 

この映画は故郷の哀愁と、映画愛についての映画といえるが、わたしは別のテーマもある気がしてならない。

 

そのことに触れる前に、まず初回にこの映画を見たエピソードを語りたい。

わたしはまだ学生だった。兄と家でDVDを借りて見たのだが、3時間もの長い映画を兄弟で見終わってから論争が起きたのだ。

議題は「こんなに長い意味があるのか」である。提唱したのは兄で、真っ向から反対したのは私である。

映画を見終わってから、レビューを検索してどのシーンが足されているかがわかり、そのことで議論になったのだ。

兄は長いバージョンは「説明しすぎだ。もっと思い出の余韻に浸りたかった。」とのことであったが、わたしは反対だった。

今週ショートバージョンを見てその思いは確信に変わった。これだと、恋愛が軽すぎると思ったからだ。

 

この映画のテーマ、それは故郷の哀愁と映画が娯楽であった、輝かしい時代を描きたかったことは一目瞭然である。

が、もっというならこの映画は「恋か自分の夢か、どちらか選んでも選ばなかったほうを後悔するし、人生においてどちらも同じくらい大切なことだ」ということがメッセージではないかと思う。

恋愛は軽視されがちだ。一時の熱といわれ、年配者に軽視される。

けれどあっさりと切り捨てられるほど、感情はうまくできていない。

 

ただ、もし自分の夢を追い求めず、故郷で結婚したとしてもそれもまた後悔するだろう。それは、主人公が帰郷して大きく故郷が変わってしまった描写からわかる。故郷を離れてよかったのだと見て取れる。

けれど、主人公はずっと、昔の初恋を反芻しているのだ。映画監督として大成功をおさめているにもかかわらず。

 

おとぎ話のように愛を選んで、すべてハッピーエンドではない。

ただ、長い年月を経て過去の思い出は美化されるものである。けれどそういう思い出をたくさん持っていて、たまに思い出すことが幸せなことだと思うし、豊かな人生とはそういうものであると思う。

 

2回目見た時に、主に歴史的な流れの部分が気になった。

トトの父親はシベリア出兵で帰ってきていない、という設定である。母は断固として、あの人は生きて帰ってくる!と言い張る。

シベリア出兵といえば、以前のイタリア映画の記事に書いた「ひまわり」もその設定である。極寒の厳しい土地で出兵をした多くの人が亡くなったという。悲しい設定であるが、史実である。

また、学校教育がひどい。体罰体罰、殴るたたく。どうなってるんだといいたくなるほどだ。

そして、ドイツ人の子供が転校する際に同級生が「親がしゃべるなといったから…」とお別れのあいさつを言わないシーンがある。

映画の黄金期と、同時期に戦争の影がある。

細かいところに気付けたので、再度見てよかったと思う。

けれど、やっぱりあのラストシーン。あのラストシーンを超えるのってなかなかない。

1回目見た時より感動は薄かったけれど、何度見てもいい映画だと思った。

 

にしても、主人公を演じたジャック・ペランは年を重ねてよりかっこいいなあ…。

若き日の彼を見たい人は「ロシュフォールの恋人たち」を見てほしい。

 

ロシュフォールの恋人たち デジタルリマスター版(2枚組) [DVD]

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