のぐちよ日記

映画、本、アート、日々のことをちまちまと。

ひとは多面性がある コナリミサト「凪のお暇」

ひとは多面性のあるものだ、ということを思い出させてくれる漫画である。 
凪のお暇 1 (A.L.C. DX)

凪のお暇 1 (A.L.C. DX)

 

 

まず「お暇」という言葉を使ったところが面白いと思った。
 
お暇(おいとま)
1訪問先から退出すること。「もうそろそろお暇しようか」
2奉公先などを離れること。「お暇をいただきます」
(goo辞書引用)
 
のんびりした休暇ではなく、現状から退げてきたような印象をタイトルから受ける。
 
サラサラロングヘアーの凪は、NOと言えない、人目を異様に気にしてしまう性格が災いし業務も同僚に押し付けられ、残業残業の毎日を過ごしていた。
 
そんな胃腸炎になりそうな日々のオアシス、彼氏の慎二は同じ会社で、別の部署に働くイケメンで人気者のの営業マン。
 
だけど、二人の交際は秘密。
そして、凪の心の中でふつふつ浮かび上がる不満と焦り・・・
凪は28歳。世間的には結婚を意識する年齢である。
 
「慎二、いつ結婚してくれるの・・・」
心では強く思いながらも、口に出さず、お家でいつも通り二人で過ごす。
そんな中、慎二にまつわるとある衝撃的な出来事が・・・
 
凪はその出来事のショックで、過呼吸になり倒れてしまい、退職する。
 
退職後はサラサラロングヘアーをやめ、くるくるの癖毛だった地毛でスウェット、貯金残高100万円、ボロい木造アパートで自由気ままな暮らし(ニート)しながら、アパートの隣人たちと仲良くなったり、恋が生まれたり、自分の過去を振り返ったり、元彼の慎二の横槍が入ったりするラブコメディである。
 
1巻を読んで、可愛らしい絵柄であるのに、職場の空気や彼氏や周りのひとから発する何気ない一言、SNS、全てがリアルでぞっとした。
誰しもある、疎外感や焦燥感。
日頃の負の感情を、凪が全て背負ってしまったのではと思うほど辛い、重い、暗い。
なんということでしょう。
よくもまあ過呼吸だけで済んだよなあと思わずにいられない。
 
大概の少女漫画は主人公がなにか言うと、同時にリアクションしたり、思っていることがふきだしに出されるが、凪のお暇はその割合が少ない。
 
 小説でいうと、連作短編になるのではないかと思う。
まず、凪目線の物語が始まる。その次の話が、元彼氏の慎二が主役になり、凪の印象や性格を語らせ、キャラクターの行動が必ず答え合わせできるようになっている。それは、元彼氏の慎二だけでなく、同僚の話や隣人の話(正確にはシーンだが)もあり、一つのエピソードから、複数の登場人物が、お互いを評価しあう仕組みになっているのだ。
わたし、あの子は、あの人は、あいつは、という視点が沢山出てくる。
 
この漫画の面白さはキャラクターの「多面性」にあるのだ。
 
慎二は職場で、バリバリの営業マンでみんなに人気があるけど、主人公の凪に対しては、かなり自己中でサディスティックだったり、アウトサイダーな風貌の隣人が実は優しかったりする。
 
誰から見てもいい人なんていないし、立場と距離感によって人の印象なんて変わってくる。一面を見ただけでは、人の個性は語れないものだ。
 
フィクションだと、悪役や意地悪なキャラクターは、どっから見てもその性格にしか見えないけど、この漫画はとても人間らしい、リアルなキャラクターがたくさん出てきて、意地悪なキャラクターもどこか可愛らしく見えてくる。憎めない。
慎二は最低のストーカーである。だが、から回っているところも、応援したくなる。
 
最新刊は3刊。なかなか物語も進んできたので、先が楽しみでしかたがない。
 
凪のお暇を読んだ後に知ったけど、学生時代にキューティというファッション誌をよく読んでいて、雑誌に連載されていた「ヘチマミルク」という漫画も楽しみにしていた。
 
まさか、その漫画が同じ作者だったとは。
 
 
約10年越しの再会。
 つくづく好みは変わらないものである。