のぐちよ日記

映画、本、アート、日々のことをちまちまと。

本能に抗えるのか 板垣巴留「BEASTARS」

2018年マンガ大賞が「BEASTARS」が受賞したと王様のブランチを見て知った。

私は以前ブログで書いた通り「凪のお暇」押しだったので、がっかりしたけれど、インタビューに答えた作者が鶏の被り物をして出てきて驚いた。

 

noguchiyo06.hatenadiary.jp

 

顔出しの理由は忘れたけれど、BEASTARSは、動物たちの世界の話で人が出てこない。「人間だと心理描写が生々しすぎるので、動物をキャラクターに書いた」という内容のことを言っていて、なるほど、と思ったし納得した。確かに人であると、作者の主張が反映されているのかなと思ったり、ロケーションや設定がリアルであるほど「実体験かな」と思わされてしまうことは否定できない。

 

インタビューが衝撃的だったので、気になって1巻を電子書籍で買ったら、今出ている7巻まで一気に読んでしまったので、ブログに書きます。

 

BEASTARS 1-7巻セット

BEASTARS 1-7巻セット

 

 BEASTARSは、草食動物と肉食動物が共存する世界が舞台である。そこは人間界からそのまま動物に成り代わっていて、服を着た動物たちが人間同様の生活を送っている。

全寮制の進学校「チェリートン学園」に通う、ハイイロオオカミのレゴシが主人公である。17歳の彼はその見た目に合わず控えめな性格で、所属している演劇部では照明係をしている。

 

物語は草食動物のアルパカ、テムが学校で殺されてしまうことから始まる。

真っ先に疑いは肉食動物、そして同じ演劇部でテムと仲の良かった、レゴシに疑惑の目が向けられるが、彼はおとなしい性格なので、同じイヌ科のゴールデンレトリバーでルームメイトのジャックは彼はやらないといい、仲間内も理解を示していたので、徐々に疑いは晴れる。事件は未解決のまま、肉食動物と草食動物の亀裂を生む出来事となる。

 

アルパカのテムは演劇部の上映作品「アドラー」での配役が決まっており、急遽代役を立てたのだが、本番まで間に合わないとの判断から3年生でカリスマ的存在の役者、シカのルイが夜に学校に忍び入り、代役に演技を教えることになった。

ルイは半ば強引にレゴシを見張り番を頼み、レゴシが外にいると、まだ学校に生徒が残っていることに気配で気が付き、その生徒に後ろから抱きしめ、捕まえる。

 

捕まえた生徒はウサギのハルであった。彼女は園芸部をひとりで切り盛りしているドワーフのウサギである。

 野生の本能がレゴシを支配し、あやうく殺そうとしたところをルイの声がしたため自分で止める。

大急ぎで逃げるハル。何もなかったとはいえ、レゴシは自身の力におびえるのであった。

 

後日、その襲った存在がハルであると、レゴシが気付き、またハルのやさしさや魅力からハルに惹かれるが、それは食べてしまいたい本能なのか、本当に恋なのか苦悩する。

 

ながくなりましたが、あらすじです。

動物が人間と同じような生活をしていて、設定がすごくしっかりしているので、不思議とその世界に入ることができる。

例えば、草食動物と肉食動物が同じ学校に通っているものの、イヌ科や種族で部屋割りされていたり、肉食動物は基本的に肉を食べられるのを禁止されていて、たんぱく質をとるメニューにかえられていたり、2日に1日、動物それぞれの野生環境を真似てつくった部屋で1時間いるよう義務付けられていたりする。(イヌ科の場合は、暗い部屋に椅子が並べられ、月あかりを模した大きなライトが天井をつるしている)

 

肉食動物が禁止されている食肉を買える「裏市」が存在している。

社会の光と影、闇社会のことも描かれているので、学校内だけでなく社会問題まで広がっていくのですごい。

 

途中で肉食動物が外出許可が出るんだけれど、そのときの街並みがロンドンのようで、リアルな世界とうまーく組み合わされている。リアルな世界でもそういうことあるよねーというエピソードもあるので皮肉が効いていて面白い。

本当にしっかりした設定で、ところどころ動物ギャグがあるので笑える。キャラクターも、すごく魅力的で裏市の心療内科医、ジャイアントパンダのゴウヒンが大好き。マッチョでクールでヘビースモーカーのパンダである。彼の出番が今後増えますように。

 

メインストーリーはレゴシの恋と、テムの殺害事件の真相である。さらに、タイトルのBEASTARSとは、学園から一名輩出される、肉食動物も草食動物も卓越した英雄のことだ。BEASTARSになると、卒業後も名誉と地位が約束されている。選ばれるために、それぞれ生徒たちの思惑が錯綜する。

 

「本能に抗うことができるのか」「草食動物と肉食動物が本当に共存できるのか」というところがテーマであると思う。

 

わたしはどうしても、同属の狼で演劇部の後輩、ジュノがレゴシへの片思いが実ってほしい。かわいいし、健気で一生懸命だし…でもどう頑張っても、狼のレゴシとウサギのハルは難しいだろうなと思うので、どういう結末になるのか、世界がどうなるのか続きがとっても気になる。