のぐちよ日記

映画、本、アート、日々のことをちまちまと。

地元の行きつけランチから、繁盛店について考えた

家から自転車で15分ほどのところに、おいしい中華料理屋さんがある。

 

知り合いのひとにおすすめされてから、そのエリア周辺に行くときに「ついでに食べて帰ろうか」と立ち寄るお店だ。

わたしが頼むのはいつも焼き餃子。

エビ入りの焼き餃子、ライス、小皿にのったザーサイ、スープがついて五百円、ボリューム満点だ。

ジューシーで好物のエビが入ったその餃子を、定期的に食べたくなる。

 

そこは本格的な中華料理やさんで、店員さんはみんな中国人。食品衛生責任者の名前も中国人の名前が書かれていた。

店員さんはいつも無愛想である。

ため口でオーダーを聞き、料理を持ってきても無言で渡すという「塩対応」が基本だ。

それでもいつもお店は賑わっている。

 

仕事休みのお昼時、ふらりと一人で訪れてみると、お客さんのほとんどが近所のガス点検の工事をしている作業員だった。

すでに食事をしているお客さんも、扉をあけて入ってきたお客さんも、みんな同じ作業服を着ていたからである。昼休憩といったところだろう。

 

わたしの隣のテーブルにいた男性は、服装的に作業員らしかった。

明るい茶色で顎下くらいの長さの髪を、片手で結わくように抑えながら、ラーメンと半チャーハンのセットを貪っていた。

おいしそうに食べるなあと眺めながら、日中の暑さでの作業お疲れ様です、と心の中で労った。

 

大分前になるが、すかいらーく創始者横川竟テレビに出ていたのを見た。

お客さんとして様々な飲食店を食べ歩きながら、繁盛するお店、今は繁盛しているがそのうち潰れるだろうお店を日々予測し、分析しているらしい。もちろん、潰れる予測を立てているお店の名前は一切明かさなかった。

 

司会者が「繁盛するお店の特徴ってなんでしょう?」と横川氏に尋ねると「お客さんの満足に答えようとしているかどうか。繁盛しているからって、店舗をやみくもに増やしたりするような、そろばんをはじきだしたお店は駄目になってしまう」とのことだ。

抽象的だなあ、と思った。

しかし、駄目になっていくお店にはそれぞれ、様々な理由があるのだろう。一概には言えないんだろうなと思った。

 

それにしてもあの中華料理屋さんは、接客態度はひどくても、たくさんのひとが通っているなと気が付いたのである。

仕事の合間に行く、またはわたしのようなひとり客にとっては、ぴったりだ。需要と供給がマッチしている。

わたしを含むお客さんたちにとっては、接客態度やサービスなんて必要ない。安くておいしければそれでいい。そう思うと、繁盛店の定義というのは難しい。

 

近所の焼肉ランチに、母と行った時のことである。

もうかれこれ15年以上は通っている焼肉屋さんで、スープ、キムチ、中茶碗山盛りのライス、サラダ、肉がつくお得なランチだ。

値段は一番安いもので1000円。お肉のグレードが高いものは1800〜2000円くらいする。

 

お店は何時いっても繁盛していて、ランチのオープン前には数人並ぶほどである。

そんな忙しさもあってか、先日行った時は新しい店員さんがふたり、はきはきと笑顔で働いていたのだ。

新しい店員さんたちがくる前、店員さんがひとりで慌ただしく切り盛りしていた時と比べると、活気づいたなと思った。

 

信頼している焼肉屋さんにいつもどおり舌鼓。

そう思っていたのだが、サラダ、キムチの小皿が出てきたときにおや…?と思った。キムチの小皿が、ピンクの花柄だったのである。

いつもは全部真っ白でそろっている器が、その日はバラバラだったのだ。

 

店員さんが増えたのもあって、あれ、経営者変わったのかなあ?と母と話していた。

そして、待ちに待ったメインのお肉が運ばれてきたのだが、わたしは「えっ…」と固まってしまった。

お肉の量がいつもより圧倒的に少ない。

しかも、まるで研いでいない包丁で切ったかのように、肉がささくれ立って薄かったのだ。

 

店員さんが立ち去り、わたしは母に「あのさ…」と顔を上げながら言うと、母は片目をウインクした。

母のその仕草は「わたしも同じこと思ったから、それ以上は言うな」という合図である。

ああ、と思いそれ以上言うのをやめ、世間話をした。

 

家に着き母が開口一番、「あのお店、どうしちゃったんだろうね」と言ったのである。

ほんとだよね、とわたしは相槌をうち、それからふたりでお店の人が変わったのか、肉が高くなったのかあれこれ憶測を立てて話をした。

 

そして母が「だれも連れていけないお店になっちゃったね」と言ったのだ。

 

ほんとうにそうだな、と思った。べつに今まで誰かを連れてったこともなかったけれど、「近所のおすすめのお店」であったのだ。

母は続けて「この前、友達におすすめしたけれど、やめとけばよかった。友達に悪いことしたなあ」と言ったのである。

店員さんが増えて接客が良くなっても、値段が変わらなくても、あのピンクの小皿とお肉を思い出すと、行きたい気持ちなんて消えてなくなってしまう。

 

あの無愛想な中華料理屋さんは、ひとにおすすめされた店だった。

繁盛店に具体的な特徴はないけれど、「だれかにおすすめしたい、だれかを連れていきたいと思うお店」であることは間違いない。

焼肉屋さんが露骨にそろばんをはじきだしたのを目の当たりにし、より一層そう思った。

 

あの焼き肉屋さん、また元通りの良いお店に戻るだろうか、と考えたけれどきっと難しい。

お店からすると少し量を減らしただけ、という意識しかないだろう。

 

昔からいる、ひとりで切り盛りしていた店員さんが、そのことに気付いてくれるといいんだけれど。