のぐちよ日記

映画、本、アート、日々のことをちまちまと。

NYの「食べる」を支える人々を読んだ感想

パパイヤジュースとホットドックを売る店がニューヨークにあるらしい。

なにその食べ合わせ。牛乳とおにぎりみたい、と思っただろう(わたしはそう思った)。

実際にこの組み合わせはある。しかも今や二代目のアレクサンダー・プーロスが切り盛りしている「パパイヤキング」という繁盛店なのだ。

 

プーロスは大学を卒業し、エンジニアになったので、お店を継ぐ気はなかったのだが、伯父さんの共同経営者が急に病で倒れたことをきっかけに、彼は安定した収入と週休2日制を捨て、パパイヤキングの経営者になったのだ。それはなぜか?

 

じゃあなぜ俺は、毎日ネクタイを締めてジャケットを着るような立派な仕事を捨てて、エプロン姿で1日10時間もカウンターの後ろでホットドックをひっくり返しているかって?

それはね、じっくり自己分析した結果、そのまま会社にいてもせいぜい主幹技師 にしかなれないけど、パパイヤキングだったら世界中に出店できるし、そしたらパリにもロンドンにも行けると思ったから。

(NYの『食べる』を支える人々 パパイヤキング アレクサンダー・プーロス引用)

 

「NYの『食べる』を支える人々」という本は、ニューヨークでおいしいと評判のレストランやカフェ、ベーカリーやケータリングサービスなど様々な食に携わって働く人々をインタビューした本である。

 

ニューヨークの食は移民が支えているといっても過言ではない。

ポーランドで生まれた男性が、強制収容所に送られる列車から飛び降り脱出し、のちにニューヨークのお肉屋さんで働いたり、リスボンで生まれた女性が看護師になり、のちにニューヨークでシェフになる、など。移民の数だけ、バッググランドもそれぞれ異なるのだ。

突発的にレストランを始める人や、コツコツ修行してオープンさせた人もいる。ひとりひとり、ドラマがあって面白い。

分厚い本だが、1人につき4~10ページくらいなので、飽きずに読めた。

 

なにより、スシナカガワという、かの有名なドキュメンタリー映画二郎は鮨の夢を見る」の小野次郎の弟子、中澤大祐とアレッサンドロ・ボルゴニョンの共同経営のお店が出てくるのだ!

…あんまり言いたくないけれど「同じ日本人として誇り高い」。

中澤さんは英語が片言らしいけれど、彼の握る寿司を目当てでやってくるお客さんと、彼を慕うスタッフたちがいるなんて、最高じゃないか。職人技は、言葉の壁を悠々と超えるんだなあと感動した。

 

東京の美味しいレストランはどこだろうと考えたけれど、たくさんあるはずなのに、全然思いつかなかった。

 

なぜかひとつだけ、近所にある中華料理屋さんを思い出した。

普段の日はもちろん、祖母のお葬式のあとも兄の結婚報告でもいった、我が家の馴染みのお店だ。

個室のつやつやした赤い円卓にならぶ、五目焼きそばやエビチリ炒め、カニチャーハンがぱっと頭に浮かぶ。

幼いころから通っているので、日によって少し味が薄かったりすると「今日は違う人が作ってるのかな」と思うくらいの常連客ぶりである。

 

もしかしたら良いレストランとは、思い出の詰まった場所のことをいうのかもしれないと思った。「最高のレストラン10選」に選ばれない、人それぞれ違う場所。

そしてあの中華料理屋さんで働く人々にも、それぞれ素晴らしいドラマがあるはずなのだ。

 

 

NYの「食べる」を支える人々

NYの「食べる」を支える人々

 

 

 

 

 

二郎は鮨の夢を見る

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