のぐちよ日記

映画、本、アート、日々のことをちまちまと。

「マダム・イン・ニューヨーク」とガーナ人の警備員のこと

マダム・イン・ニューヨーク」という映画を見たら、留学していたマンハッタンの学校の警備員を思い出した。連絡先も名前も知らないが「その当時すれちがっただけのひと」のほうが後々思い出に残るものである。

 

色黒でスキンヘッド、いつも黒ぶち眼鏡をかけていて、笑顔が張り付いているような顔をしたガーナ人のおじさんで、おこったり苛々しているところなんて一度も見たことなかった。

ランチ時に外出するためエントランスを通ると、彼はいつも母国語でだれかに電話をしていた。業務中にプライベートの電話って、日本だったらクビだろうな。でも彼なら許せそうなくらい、誰にでもフレンドリーなひとだった。

 

 マダム・イン・ニューヨークとは、2012年に公開されたインド映画だ。

専業主婦のシャシが、ニューヨークに住む姪っ子の結婚式の手伝いをするため、渡米することになった。夫と子供たちは3週間後に来ることになり、初めての海外で一人旅、苦手な英語でふさぎ込むシャシ。

ニューヨークに着いて数日たったある日、シャシは一人で入ったカフェで、まともに注文をできなかったことにショックを受ける。

英語が話せないことを家族にばかにされていたこともあり、一念発起して英語学校の4週間コースで猛勉強する、というお話だ。

 

4週間で英語習得は無理でしょうという点は置いておいて、英語を通じてシャシが成長していく姿を描いた物語である。

 

わたしも英語が全く話せないまま留学をしたので、シャシの気持ちは痛いほどわかる。感情移入しっぱなしで、画面に向かって「がんばれ!」と応援したほどだ。笑って泣ける映画である。

 

英語学校の生徒たちもすごく個性的でチャーミングで、授業シーンはとても楽しそうだ。わたしも授業に出席したくなった。

その中の一人、ローランというフランス人シェフの男性が、既婚者のシャシを遠慮せず口説くのにはどきどきした。

授業中に「僕がこのクラスに来ているのは、シャシがいるからなんだ」と公開処刑告白する始末である。

情熱的過ぎてひく。その時、シャシは授業が終わると一目散に帰ってしまい、ローランはほかのクラスメイトにたしなめられる。

「おい、君の国の女性じゃないんだ。インドの女性は誇り高いんだよ。困らせるなよ」

 

これって文章で見ると、差別的なのかなとも思ったけれど、キャラクターの言い回しとしては全然そう感じない。むしろお互いの国の違いを受け入れている様子で、それが嫌味ではないのだ。

 

けれど、ローランがシャシを一生懸命アタックするのは無理もない。シャシ(を演じたシュリデビさん)は美しすぎた。わたしは、彼女の顔がアップになるたび「美しい…」とつぶやいていました。インドではかなり有名な女優らしい。

 

 

悲劇は突然やってくるものだなと思う。

実はシュリデビさんは今年、ドバイのホテルの浴槽で亡くなってしまったのだ。*1

死因は溺死。享年54歳。若くて美しかったのに、とても残念である。ご冥福をお祈りいたします。

 親族の結婚式に参加するために、インドからドバイへ行ったらしい。シャシと状況が似ていたので、なんとも不思議な気持ちになった。

 

追悼の意も込めて、マダム・イン・ニューヨークを見ていない方は是非見ましょう。

 

 

 ガーナ人の警備員とは、通りがかりに挨拶を交わして、少し話すだけの間柄だったのだが、わたしが卒業する数日前に

「ねえ、4月になったら卒業するんだったよね?」と聞かれた。

そうだよ、と答えると彼は「僕、4月から1か月休暇とってガーナに帰るんだ。卒業の日見送れなくて残念だよ。元気でね」と言ってくれた。

天気とか週末の予定とか、そんな話しかしていなかったのに、覚えてくれたのがすごくうれしくて、何度もありがとうと言った。警備員はゲラゲラ笑ってた。

 

あの警備員のおかげで、地球の裏側にある彼の故郷は、絶対に良いところだと確信している。一度もいったことはないけれど。

 

いつも「That's true!」となまりのある英語で相槌をうつ、彼は元気だろうか。