のぐちよ日記

映画、本、アート、日々のことをちまちまと。

ポパイ5月号「ニューヨーク退屈日記」とわたしのニューヨーク

正統派ユダヤ人を、ニューヨークに行くまで見たことがなかった。

 

本で読んだのでもともと知っていた。男性はひげを伸ばし黒い帽子、黒のジャケットスタイルとパンツ、白シャツ、黒の靴。女性はひざ下丈のスカートの格好であるが、本物を見たことがなかったので、さすがニューヨーク、いろんな人種や文化の人がいるなあと感心した。

当時すれ違うだけで友達にもなれなかったのだが、今月のポパイ、「ニューヨーク退屈日記」で「ジューイッシュ街を歩く」というページから彼らの文化や生活を知ることができた。

POPEYE(ポパイ) 2018年 5月号 [ニューヨーク退屈日記。]

POPEYE(ポパイ) 2018年 5月号 [ニューヨーク退屈日記。]

 

1日2回のお祈り、金曜夜から土曜までシャバスという休日だという。興味深かったのは「帽子は神を意識し、畏敬の念を抱いていることを示している」だそうだ。

だからみんな帽子をかぶっていたのか。納得した。

 

超正統派のユダヤ人の人々は(仏教にもさまざまな宗派があるように、ユダヤ教も同じようにある)インターネットも使わず独自のルールで暮らしているという。

伝統的な生活をする人々が住むエリアのとなりで、世界最先端の文化が生まれている。ニューヨークはモザイクタイルのようで、実に刺激的な都市である。わたしがニューヨークを好きな理由がそこにある。

 

「ニューヨーク退屈日記」のタイトルでピンときた人もいると思う。

以前紹介した、伊丹十三のヨーロッパ退屈日記のオマージュである。

 

noguchiyo06.hatenadiary.jp

ポパイは伊丹十三びいきでエッセイや映画をたまに紹介しているのだが、今回のタイトルとニューヨークに惹かれ購入。

わたしは短い間だが留学経験があるほど、ニューヨークが大好きだ。内容も面白かったので、紹介したいと思う。

 

ヨーロッパ退屈日記は、伊丹十三が海外で俳優として作品にでたときに、イギリスに滞在していたときのこと、ヨーロッパを旅行へいったときのことを書いたエッセイだ。

伊丹十三が本物にこだわりあーだこーだ批判したり、俳優仲間とジョークを言い合ったことを書いていて、ニューヨーク退屈日記も、伊丹十三のエッセイをなぞっている。

 

ヨーロッパ退屈日記で、バーについて書かれていたのだが、ポパイ特集の中でもバーのことが書かれていた。

タイトルは「ナイン・ナイツ・ストーリーズ」。ライターがニューヨーク滞在中、毎晩飲んだバーとエピソードを紹介したページである。このタイトルもアメリカ文学で有名なサリンジャーの短編集「ナインストーリーズ」をオマージュしている。にくいなあ。

 

ナイン・ストーリーズ (新潮文庫)

ナイン・ストーリーズ (新潮文庫)

 

 

 わたしはニューヨークにいたときに、バーはほとんどいかなかったので、書かれていたグランドセントラル駅に入っているバー(グランドセントラルは日本で言う、東京駅みたいなところです)なんかは知らなかった。もっと滞在中にきちんと調べていたら、行けたかもしれない。少し後悔した。

 

ポパイはメンズファッション誌であるし、おしゃれやこだわりのレベルが高いので、伊丹十三のスタイルとマッチしていた。

ティファニーで朝食をについてだとか、トラッドについて、トム・ブラウンについてなんてまさにそうだ。

 

わたしは座り心地の悪い椅子に座った時のような気持になった。わたしが住んでたところや生活はこんなキラキラしていなかったからだ。

 

ただ、ハイファッションやアーティスティックではない、素朴で面白いページもたくさんあった。

 

そのなかでも好きなページは「ニューヨークに郷土料理はあるか」。三人の若いニューヨーカーが自身の馴染みのある味を紹介するというページである。三人はエリアは違えどニューヨーク生まれ、育ちであるにもかかわらず、三人が挙げるものもそれぞれ違って面白い。ニューヨークが多国籍であることがよくわかる内容である。

 

この三人はポパイ風ストリート系のおしゃれなので、本当にリアルな食べ物なのか疑わしいが(ニューヨークにはダサい人もいっぱいいるし)マック&チーズという、マカロニとチーズで焼いたものが取り上げられていたのでおお、ローカル。これは本当だと思いなおした。

おしゃれなカフェにも、スーパーのインスタントとしても売っているなじみの味である。

一口目ものすごくおいしい。何口目かで飽きる。全部チーズ、具はマカロニのみだからだ。懐かしい、もう一度食べたい。

 

ほか興味深かったのは「ニューヨークのタワー、どこから見るか」の近藤聡乃さんのページである。

わたしが滞在中に友達におすすめされ、読んだ「ニューヨークで考え中」の作者だ。

 

ニューヨークで考え中

ニューヨークで考え中

 

 この漫画を読んだとき、わたしはちょうど部屋を探していたのだが、どのエリアにしようか迷っていた。そこで、作者がアストリアという、ギリシャ人が住む安全な街に住んでいるということでわたしもそこにしようと決めたのである。単純な理由であるが、それほどリアルで、魅力的に町や人を描く漫画なのだ。

 

誤算は、同じアストリアでもわたしが住んだ地域はブラジル人街だったのである。近所のスーパー、家の向かいのレストランはブラジル系だった。ストリートや駅がひとつ違うだけで全然違う人種が住んでいるのがニューヨークの特徴だ。

漫画のイメージと違ったのでがっかりしたけれど、陽気で適当なブラジル系レストランの店員さんと、どれを食べてもおいしいブラジル料理は、ギリシャ人街では知りえなかったことかもしれない。帰るまでの5か月間、わたしはその街に住んだ。

 

ポパイ特集に話を戻すが、この「ニューヨークのタワー、どこから見るか」で作者は漫画の撮影資料のためにイメージ通りの場所を探しに歩いたことを書いている。

 

ニューヨークは格子状に道が区切られていて、縦がアベニュー、横がストリートになっている。この住所はわかりやすいが、例えばタクシーでアベニューとストリートの番地を逆に言い間違えるとえらいところに連れていかれる。友達が実際にその経験があると言っていた。

 

「A子さんの恋人」という作品で主人公と恋人が散歩しながら「あ、エンパイア」とエンパイアステートビルディングを見てつぶやく場面を書きたいために、町を歩き回り写真を撮ったという内容である。ひとつのコマのため、取材をきちんとしているので、漫画家って大変だ、すごいなあ思ったのと同時に、だからわたしもアストリアに住もうと決心できたんだなと思った。

 

細かい街の描写にわたしも一緒に歩いている気持ちになる。ああ、また行きたいなあ。懐かしさでいっぱいになった。

 

先週、ニューヨークの学校にいた時にできた、中国人の友達2人が東京に5日間遊びに来た。私のニューヨークを懐かしむ気持ちが強いのはそのせいだ。

おしゃれで、個性的で明るい友達と歩いたわたしの「東京退屈日記」。次はそのことについて書こうと思う。