のぐちよ日記

映画、本、アート、日々のことをちまちまと。

古本を巡って 浅生ハルミン 「ハルミンの読書クラブ」

 

都会でビルが建ち並ぶ様子をみて「ビルが地面から生えてきた」と思う人はビル好きで、「ビルが地面に刺さっている」という人はビルに対して否定的な人でしょう。

前者はビルを生き物にたとえるだけの親近感を持っているということだし、後者にとってビルは天から降ってきた侵入者だと言えます。

浅生ハルミン 「ハルミン読書クラブ」団地と新しい生活)

 

あなたはどちらでしょうか。

 

ハルミンの読書クラブ

ハルミンの読書クラブ

 

 浅生ハルミンさんはイラストレーターでエッセイスト。

ハルミンの読書クラブは、浅生ハルミンさんが出会った古本と、思い出のエッセイである。

 

ハルミンの読書クラブは「です・ます」調と「だ・である」調の文章がごっちゃになっているのも特徴の一つである。

学生時代から「です・ます」調で書きだしたら、そのままそろえて書きましょうと習ってきたので、驚いたしありなんだ!と思った。

俳句だって自由律俳句があるし、公式な文章でなければ形式ばらなくても良いはずである。そりゃそうだ、と納得した。

 

見慣れないため、ちょっと不自然であるけれど、うまく作家の個性が出ていて良い味になっているので効果てきめんだ。ちなみにわたしも旅行記からまぜてかいております。猿真似でございます。

 

浅生さんは古本屋めぐりが好きだそうで、見つけた本や小さい時の思い出を織り交ぜながらこの本も書かれている。

花椿という資生堂が出していたフリーペーパーの話(この本は2008年のものなのでなかったのかもしないけれど、現在は紙とWEBで連載中)や新聞の折り込み広告の話など、普段注目しない紙の媒体を見つけていて面白い。

包装や表紙、紙の質まで書いているので、さすがデザインをやられている方の観点だなあと思った。

 

全体的にほんわかゆるい、ノスタルジックな印象のエッセイである。

だが、ちくっと人の核心をつく箇所があったので「高野文子のサイン会」の章から引用する。

帰り道、Y子さんと「男の人のほうが多かったね」「高野文子先生の漫画を好きな男の人って、どんなふうに好きなのか聞いてみたい」と話したり、高野文子さんの漫画のどこが好きかをそれぞれの意見を出し合って讃えた。

でもY子さんは私の感想を「わかっていないなあ」と思っていそうで、私もまた、Y子さんの感想をいまいち腑に落ちないと思うのでした。

誰かに高野文子さんの漫画の素晴らしさを言い当ててもらいたいという気持ちと、どんな言葉も遠巻きにしか聞こえない気分がこんがらがってしまうけれど、これからも高野先生の漫画をくじけず追い求めたいです。

 

どこがいいのかうまく言えなくてもどかしくて、そのくせ、魅力はそんな簡単に語れない!と息巻いてしまって、結果もっと追い求める。のどがずっと乾いているような感覚。

絶妙なファン心理を書いてるなあと思った。

 

ゆるっと肩の力を抜きたいとき、たびたび読みたい本である。

 

 最後に、WEBの花椿の漫画「ダルちゃん」がすごく面白かったのでおすすめ。

hanatsubaki.shiseidogroup.jp

 

毎週木曜日更新だそう。

読んだ本に載っていた知らないことを知って、楽しみがひとつ増える。これだから読書はやめられない。