のぐちよ日記

映画、本、アート、日々のことをちまちまと。

クリエイティブ習慣 メイソン・カリー 「天才たちの日課」

生粋の飽き性である。歯磨きや入浴などの習慣はあっても、やらなければならないこと、学びたいことは全くといって続いたことはない。

食事の時間さえ、規則正しくするのが苦手だ。

 

習慣にしたいことそのものを忘れてしまうこともしばしば。注意散漫で集中力も続かない。ひとつのことを極めることに並々ならぬ憧れがある。

 

天才たちの日課  クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々

天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々

 

 19世紀~今日まで、天才と言われてきた人々の一日のスケジュールを1人ずつ、半ページから多くて3ページくらいまで書いた本である。

パブロ・ピカソフランシス・ベーコンカール・マルクスウディ・アレンジャン・ポール・サルトルアンディ・ウォーホルなど画家・作家・映画監督・哲学者・経済学者・作曲家など、その職業は多岐にわたるが、アメリカ、ヨーロッパ人が多い。

一生を惜しげもなく作品や研究に没頭し、成果を出した天才と呼ばれた人々の記録だ。

 

スケジュールを決めていないという人もいるが、ほぼ習慣として創作時間が決まっている人が多かった。

夜型よりも朝、午前中に仕事を片付ける人も多い。毎日きっちり仕事をしている人が多い印象である。

気分転換の仕方は、家族と過ごす・手紙を書く、散歩が多い。

ちなみに、アメリカのジャズミュージシャンだった、ルイ・アームストロングは民間療法に頼り切っていたとのこと。

サブタイトルの「クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブではない日々」は納得である。

 

ただ、たばことコーヒーの過剰摂取をしている人が多く(中にはマリファナまで)健康的であったとはいえない。生みの苦しみで多大なプレッシャーがあったのではないか。ロートレックも、アルコール中毒のせいで36歳で亡くなる。

 

淡々とスケジュールを書いている本ではあるけれど、友人にあてた手紙やインタビューが元の資料として多いので、その人の個性が分かりやすく出て面白い本である。

 

レ・ミゼラブル」を書いたことで有名のヴィクトル・ユーゴは、とにかくメモ魔だったらしい。

息子のシャルルがそのことでこう残している。

「父はほんのささいなこと―よく眠れた、とかなにか飲むものをくれ、とかいう会話以外のすべて―をひと言いうたびに、メモ帳を取り出し、いま自分がいったことを書きとめた。なにひとつ取りこぼさなかったし、そのすべてが活字になる。だから息子たちが父のいったことを自分の作品に使おうとしたら、必ず見破られてしまう。自分たちがメモしたことすべて、父の本が出たときに、もう世に出てしまっているのだから」

名作を生み出した著者が、すさまじい創作意欲を持っていたことが分かる。

ただ、ヴィクトル・ユーゴに関してショックな記述がある。

ナポレオン三世がフランスの政治の実権を握った時、詩人で作家のユーゴは亡命を余儀なくされた。

家族とともに、ノルマンディー沖にあるイギリス領、ガンジー島に移り住み15年暮らしたのだが、なんと愛人を亡命先まで連れて自分の家から9軒先に住まわせていたそうだ。

昔と今とじゃ不倫の重さも違うけれどそれにしても、えー、ショック。ちょっと大胆すぎませんか?まさか社会派の作家がそんなことをしていたなんて。家族は黙認していたのだろうか。知りたくない事実である。

 

ニューヨークで暮らしていた、アメリカのポップアートで湧いた時代に活躍した抽象画家、ジャクソン・ポロックは、お酒を浴びるように飲むようになったため、ロングアイランド東部のスプリングスという田舎に引っ越したらしい。その生活についても書かれている。ニューヨークでは毎晩パーティをしていたそうだ。

田舎に引っ越してから、ポロックのあの代表的な表現技法も生まれたそうで、拠点を移す提案をした奥さん、賢明な判断である。

 

習慣にしてしまうことが成果につながるんだなあと思ったけれど、作曲家で指揮者のグスタフ・マーラーは手放しに尊敬はできなかった。

マーラーの夏の休暇中の別荘での記録を妻、アルマがのこしている。

生前マーラは指揮者として活動しており、作曲家で名を成していなかったらしい。

かなり神経質な男だったそうだ。

午前中の創作活動を始める前はだれとも話したがらず、お手伝いさんが、作曲するためにつくった小屋まで食事を運ぶようになっていたそうで、鉢合わせしないように歩道ではなく、すべりやすい急な小道を歩かなければならなかったとのこと。

 

神経質なマーラーの生活の記述は続き、最後にアルマは日記でこう残している。

「わたしのなかでたいへんな葛藤が渦巻いている!わたしのことを考えてくれるだれか、わたし自身を見つけ出すのを助け出してくれるだれかを熱望するみじめさ!わたしは家政婦になってしまった!」

アルマも前途有望な作曲家であったのだが、マーラーが家に作曲家はひとりで十分だといい、辞めさせられてしまったのだという。

 

 後世に残る素晴らしい曲を残したマーラーや、ほかの芸術家にも家族の支えあってこそであった。手放しに天才ってすごいな!と思えないリアルな生活も書かれていて、天才が少しだけ、身近に感じる本である。 

 

天才でもなく、クリエイティブな人でもない私だが、このブログは唯一ほぼ毎日更新している。

今のところは続いているが、いつ途切れてしまうかわからない。あまり自分に期待はしていない。けれど集中できる時間はわたしにも、もしかしたらあるのかもしれない。毎日、自分を観察して集中できる時間を探してみようと思う。