のぐちよ日記

映画、本、アート、日々のことをちまちまと。

石の上にも三年 鳥飼玖美子「本物の英語力」

「学歴は必要ない」(今SNSで就職活動をしている学生が暴露した、企業の学歴フィルターの件で話題になってますね)、「お金は必要ない」など必要ない、と断言してしまうことは 意見として強いし、ぐっと興味が惹かれる言い方だ。

思わず「それってどういうこと?」と聞き耳を立ててしまう。興味はそそられるものの、ふたを開けてみるとその意見の大半が極論で、わたしはあまり好きではない。

そのうえ学歴は必要ない、関係ないと主張する人たちは、大概高学歴なのが気に食わない。わたしの個人的な嫉妬からくるぼやきである。

 

「○○は必要ない」論はとりわけ、学習面につかわれることが多い。

効率的に簡単に勉強したいと、だれしも思うのではないだろうか。わたしもその中の一人であるし、特に英語学習はその傾向が強いようである。

精読は必要ない、単語は覚える必要はない、ない、ない…~さえすれば良い、で結ぶタイトルや帯の英語学習に関する本が、どれほど本屋に並んでいるだろうか。

 

数年前に読んだ本を再読したので、感想を書こうと思う。

 

本物の英語力 (講談社現代新書)

本物の英語力 (講談社現代新書)

 

 

だいぶ前に「NHKニュースで英会話」(NHKの回し者かってくらいNHKの話しているけれど、全くそうではありません)で鳥飼玖美子さんが出演しているのを見て、とてもあたりが柔らかくて知的なひとだなあという印象があった。高いけれど落ち着いた声も好きだ。

鳥飼玖美子さんについて調べると、 あの番組の監修もしているし、かの歴史的出来事、アポロ11号の月面着陸のときに同時通訳者の一人であった、とのこと。偉人である。

 

まず初めに「英語は身に着けるべきもの」という論調から始まることを事前に伝えたい。英語を使ったお仕事をされている方なので、当然のことではある。

TOIECなどの英語検定試験について、ビジネスの場面での英語、英会話や文法について、発音、多読・精読についてなど、総合的な英語学習について書かれた本である。

 読んでみると、ですます調のせいもあり、わたしの印象通りの、柔らかく知的な人柄をうかがえる文章である

 

例えば、アメリカ国務省が発表する海外渡航に関する注意では、以下のように定義が異なります。

travel alerts:テロの脅威、政情不安など短期の危険について注意を喚起するものです。日本の外務省が渡航について出している「海外安全情報」の「十分注意してください」にあたる感じです。

travel warning:長期にわたり不安定な状況が続いており、渡航は避けるべきだと警告するもので、外務省が出す「渡航中止勧告」に該当すると考えられます。

 

つまり、同じ「警告」でも、英語ではaleartより深刻な場合にwarnとなるニュアンスであることが分かります。

このような違いを知るには、多くの英文にあたるしかありません。

 会話や単語を丸暗記するだけでは英語力はあがらない。文化的な背景を理解しないと、本当の意味が分からない。そのためにはたくさん英文を読んでニュアンスを理解しないといけない、ということである。

さすがに国際人は違うなあ。とてつもなく理論的だ。

 

語彙力は重要で身に着ける必要があるものだ。alertとwarnの説明通りである。英語を辞書で調べた時、母国語でないと一見同じ意味でも、微妙な差異が伝わらないからだ。母国語で考えて頭で理解できなかったら、いつまでたっても言葉して使えないだろう。

私たちが学生時代に学んできた国語も数年かけて、熟語や言葉の成り立ちを学び、並行して論文や物語に触れ、使い道を習った。語学は何かを省いたからといってすぐにできるものではない。

英語を学ぶことを中心に書かれた本だけれど、それと別に母国語の語彙力を伸ばすことの必要性も説いている気がしてならない。正しい日本語も学びたいなあとわたしは思った。

 

それにしたって、道のりが長すぎる。ずっと学んでいくなんて、つらい…ただでさえ勉強大嫌いなのに。そう思ったけれど、鳥飼さんはそんなわたしに、ちゃんと救いの手を伸ばしてくれた。

 

中学生に「英語は大嫌いです」と言われたことがあります。そうなの、と答えてから、「好きなことは何?」と聞いてみたら、返ってきたのは、「野球です」。そこで、野球はアメリカが本場だけれど、日本の野球はアメリカの野球と微妙に違うところがあるようだ、野球の実況中継も日本とアメリカでは語り口などがだいぶ違う、という話をして、「英語が分かるようになると、日米野球の違いが分かって面白いと思う」と付け加えたところ、驚いた顔になり、「へー、そうなんですか。ちょっと英語やってみようかな」と言ってくれました。

関心のあることがとっかかりになって、知りたいという目的が生まれると、好きなことに引きずられて、いつの間にか英語はあなたの日常に入りこんでくるはずです。

 英語だからって嫌いと決めつけてしまっている中学生へ、わかりやすく説明し学ぶきっかけを与えてくれる。優しい人柄もうかがえ、わたしの心にも響いた。

 

ところで、引用文章からわかるように鳥飼久美子さんの文章は一文が長く、句読点が多い。

もしそうかなあと疑問に思った方は、一度戻って引用を再読してみてほしい。

日常的に英語を使われていることと、英語のニュース資料を読むことが多いからなのかなあ。けれど理由はわからない。単なる癖かもしれない。

文章は筆者の言いたいことだけではなく、その人自身の「癖」も垣間見えるから面白い。読書をするときに、こういった筆者の文章の個性を見ることも好きだ。

わたしも何か個性があったらいいなあと思う。