いつでもどこでも本といっしょ
本屋の品ぞろえは、世情を表しているなあと思ったのは、ニューヨークにいた頃に現地の本屋に行ったときである。
シェイクスピアと聖書がそれぞれ本棚のカテゴリーがあり、それらの本の数も多かったので、全然日本の本屋と違うことに驚いた。日本作家だと村上春樹と川端康成の英語版が多かったと記憶している。
人々の関心事、大事なもの、有名なもの。国も違えば全然違うことではあるが、改めてずらっと、見せつけられた気がして面白いと思った。
シェイクスピアについて、以前アメリカの友達に
「なぜ本屋にはあんなにシェイクスピアの本があるのか。人気なのか?」と尋ねたことがある。
答えは「有名だから。学校の課題として取り上げられるから。」とのことである。
なんともつまらん理由。そう思ったけれど、日本で言うなら「夏目漱石」か。そう思えば納得する。好き嫌い別として、たくさんの日本人が現代文のテキストで触れたと思われる。
東京の大手の本屋にいえることであるが、地域によって取り上げられるコーナーや品ぞろえが少し違うことにそれから気付いた。
東京駅の近くの本屋はビジネス書が多いし、恵比寿の駅中の本屋はライフスタイル本が多い。
地域や本屋の個性が出て、すごく面白いと思う。
わたしは、本屋に行くと平気で1時間はつぶれるので、なにかの約束の前にはいかないようにしている。
先ほどの本屋の品ぞろえのことから考えると、私の家の本棚と、今や入りきらず平積みされている本たちは、私の頭の中そのものなんじゃないかと思った。
我が家は、幼いころからの大量の漫画・文庫本・図録でひしめき合っている。
本好きな母と、昔兄が住んでいたころ置いて行った本もプラスされて、バラエティ豊かな品揃えだ。
一家の趣味嗜好がまるわかり、丸裸である。今まで意識したことがなかったが、家に遊びに来た友達が、私の本棚を見て「クスッ」としたのだろうかと考えたけれど、大概のことは自意識過剰で片付けられるので、これ以上は気にしないことにした。
平積で置かれていく本たちにもかわいそうだし、持ち運びも楽だからという理由で、Kindleですべて買えばいいやと思った時期もあった。
ただ、不思議なことにkindleで買った本はあまり愛着はもたないということに気付いた。
紙の本はぐるぐる本屋を見るときに惹かれて買うからか、読了することも多い。
本は内容を読むだけでなくて、選んでる時から楽しみが始まるものなのではないか。そう思うようになった。洋服屋さんに行った時の、試着ルームに入る時のわくわくと似ている気がするのである。
いつからか私は、旅行前に必ず本を買うことにしている。
沖縄に行ったときは吉本ばななの「なんくるないさ」を羽田空港で買って移動中や、沖縄で読んだ。
特にロケーションもばっちりあう本だと、キャラクターがどこかにいる気がしてきて、わくわく度が増すので、おすすめである。
先ほど積読の本たちの中からヘルマン・ヘッセの「メルヒェン」を見つけた。哲学的な話が多くて、「大人の童話」のような素敵な短編集だ。
その本から友達と、神戸旅行の時に行った喫茶店の、紙のコースターがはらりと出てきた。
ビスケットのような丸い形をしていて、白にアッシュ寄りの茶色のロゴと、ロゴと同じ色のイラストが真ん中に描いてある。素敵なデザインだったので「しおりにしたらいいかも。」と思ってそのままその本に挟んでおいたのだ。
この喫茶店、あのきつい坂道の途中にあった人気の喫茶店なんだよなあ。どこを周るかかで友達とちょっともめたなあ。あの時は友達が飼っていたペットはまだ生きていて、その話したなあ。
旅行はどこに行ったか、よりも何でもない会話や、どってことない場所を思い出すことが多い。そのどってことないエピソードが、一番懐かしく後にいい思い出になるものである。
日常だけでなく、旅に新しい本を一冊持っていくこと。後々思い出の一つになるので、ぜひおすすめしたい。