のぐちよ日記

映画、本、アート、日々のことをちまちまと。

わたしは西洋かぶれである

幼いころから母に西洋美術館に連れていかれ、ヨーロッパ絵画に触れる機会が多かったせいか、文化も芸術も、西洋のものを好む傾向にあった。

 

一番古い記憶だと、車で西洋美術館へ行ったことだと思う。

兄も、父も全く芸術というものに興味がないし、そもそもあまり我が家はみんなでどこかに行くほど仲良くもない。近場の西洋美術館は、なおさら車で行かない場所なので、我が家にとっては奇跡的な出来事だった。

 

美術館の前にある、ロダンの「地獄の門」を恐れていたのを覚えている。企画展示はなんだったか覚えていないが、中世ヨーロッパからルネサンス芸術で、ジャンヌダルクが身につけそうな甲冑が展示されていて、怖かったことをよく覚えている。

あの時10歳に満たなかったと思うが、刺激が強すぎた。その影響か、風邪をひくと、パイプオルガンとオペラの爆音が聴こえる夢を何回も見た。絶対あの展示のせいだ。確信を持てる。

 

たびたび母に美術館に連れていかれるにつれ、恐れの対象であった西洋美術も、不思議にも魅力的に感じるようになったのだ。母の洗脳教育、おそるべしである。

きっかけはゴッホだったので、わかりやすいところからであったが、それからどんどんのめりこんだ。

思春期真っ盛りだったころは「なんで日本人で生まれたんだろう・・・」「一生海外に住みたい」と夢を持ったものである。

なにも成し遂げていないくせに、西洋コンプレックスを爆発させていた。

この悶々とした気持ちはずいぶん引きずったけれど、岡本太郎の「日本の伝統」を読んでその感情は軽減した。 

日本の伝統 (知恵の森文庫)

日本の伝統 (知恵の森文庫)

 

 この本をどこで見つけたのかも覚えていない。学生時代に岡本太郎が大好きだという、友達がいて、興味を持った気がする。

 

岡本太郎は西洋芸術をダイナミズムとし、日本芸術をミニマリズムと批評し、

ああ、これか!日本と西洋の違いは!と雷に打たれたような衝撃を受けた。

そして、日本芸術のいいところも、悪いところも含め、根本的な思想やルーツまで語る岡本太郎に尊敬した。

徹底的に調べ上げ、西洋芸術と比べ批判する文章に

「なにかを批判したいときは、批判したい対象を調べ上げて、どこが悪いかを説明しないと、納得させられないんだ」ということを学んだ。

感情的に批判することは、なにも生産性がないことだな、と思った。

 

それから私は、闇雲に日本下げの意見を言わないようにしている。日本史をまともに勉強しなかったし、知らないことが多すぎるからだ。

それに、最近は日本芸術の良さを分かり始めてきたので、そうは思わなくなってきた。無知でいることは愚かなことである。知ることは、自分の偏見をそぎ落としてくれるものだと思う。

 

「隣の芝生は青く見える」という現象は海外でもよくあることらしい。

 

 邦題の恥ずかしさは置いておいて、監督はウディ・アレンバルセロナが舞台の恋愛コメディ映画である。

アメリカ人の主人公は、アートな自分に酔っていて、生まれ育ったアメリカという国が好きではない。親友とともに、バルセロナに旅行に行き、芸術家と恋に落ちる話なのだが、これが本当に面白い。

親友が先に芸術家と関係を持ったり、芸術家の元妻がでてきたりこじれにこじれまくる。

 

ウディ・アレンの良さは「シリアスな場面が笑える」というところだと思う。

男女の口論シーンなんてほんとうに笑える。この不毛さ・滑稽さの演出は見事だと思う。

 

ただの、旅の開放感に任せた、自由奔放な恋愛コメディ映画ではない。

これはわたしの勝手な見解だが「ヨーロッパ的な、愛やロマンスを重んじた芸術的な生活とはこれですけど、どうですか。」というメッセージが込められているのではないかと思う。

本物の芸術家の前では、このアーティストかぶれの主人公は普通の人である。その対比がとてもわかりやすいのだ。

 

ウディ・アレンはもっと有名な作品もあるし、傑作も山ほどあるが、西洋芸術を皮肉った作品は「それでも恋するバルセロナ」ではないかと思う。

 

見終わった後に「バルセロ~ナ~♪」という、あの劇中歌が頭から離れなくなったら、ぜひ他のウディ・アレン作品を手に取ってほしい。

 ひねくれた、西洋かぶれなわたしのようなひとに、おすすめしたい映画である。